統合レポート/アニュアルレポートはどのように活用されているのか?またどのように作成すべきなのか?こちらでは、実際に投資の世界で活躍されている方や、コーポレートレポーティング(企業報告)に関する有識者などに意見を伺い、その内容をご紹介していきます。第一回目は、個人投資家ブロガーであり、2014年から社会的責任投資フォーラム(JSIF)の事務局長も務められている吉田喜貴さんにお話を伺いました。
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1978年生まれ。2000年より投資活動を開始。河口真理子氏(現:大和総研 調査本部 主席研究員)との出会いを機に、2010年よりCSRレポートやアニュアルレポートなどのコーポレートレポーティング(企業報告)を投資判断に活用するスタイルを確立。非財務情報に基づいた個別株への長期投資が基本。 ブログ「投資を楽しむ♪」で、情報発信中 http://www.pixy10.org/
2000年から株式投資を始めたとのことですが、どのようなきっかけで?
母親が「あなたのときには年金が出ないかもしれないから、これで投資の勉強をしなさい」と、へそくりの100万円をくれたことが始まりです(笑)。でも、ITバブルのピーク時に始めたので、そこから株価はみるみる下がっていきました…。当時は何も考えずに株を買っていたのですが、「これではいけない」と会計の勉強を始めました。
その流れで、税理士試験の会計試験を受けたりして、税理士事務所で働きながら投資の勉強も引き続きやっていました。その後、「会計だけではせいぜい半年先のことしか分からない」と気づき、もっと長期的な視点で企業を見る方法を模索していました。そして、なぜだか思い立って大学院に行っちゃうんですよね。そこで非常勤講師として教鞭を取っていた河口真理子さん(現:大和総研 調査本部 主席研究員)に出会いました。
不思議な経歴ですね(笑)。初めから長期投資スタイルだったのですか?
最初はデイトレードもしていましたが、テレビゲームのようで面白くなかったです。「経済」ってとても面白いと思うんです。その中のひとつとして株式投資がある。だからいろいろ学びながらやっていきたいと思いました。その結果として、気づけばこんな経歴になっていたんですよね。
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なぜCSRレポートを投資に活用しようと思ったのですか。
河口さんの講義でCSRレポートを読んで評価するという課題がありました。どうせならそれを自分の投資に結び付けられないかと思ったことがきっかけです。それが2010年頃でした。その時は10社程度のCSRレポートを読み、某食品会社の株を買いました。自社の事業とCSRを結び付けて語っていたところに納得感がありましたね。会計の面から見ても割安で、現在は2倍強の価格になっています。
アニュアルレポートは読まれますか?
もちろんです。基本的に企業が発行しているレポートはすべて読むようにしています。長期投資は「その企業を好きになれるかどうか」が一番のポイントだと思っているんですよね。有価証券報告書や決算短信などもありますが、それらは法律や規則で決められた内容に沿って書かれているだけで、その企業の個性までは分かりません。個性が分からなければ好きにも嫌いにもなれませんから、CSRレポートやアニュアルレポートを読む必要があるわけです。
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特に注目しているコンテンツはどこでしょうか。
まずは目次をチェックします。似たような目次が多くて、それらはすべて除外します。次に社長メッセージを読みます。社長自身の言葉で語っているようなものは好印象です。明らかに他人が書いたようなものや、ありきたりな言葉で語っているようなものは外します。せっかく個性が出せる資料なのに、法定書類のように他社と似たものを作ってしまう企業は、事業でも競合との違いを出していくのは無理でしょうから。
アニュアルレポートとCSRレポートは使い分けていますか。
特にないです。どちらの場合でも、その企業の個性がきちんと伝わればあればいいですね。いま「統合報告」が増えていますが、本来は「事業とCSRはつながっている」というのが前提としてあるべきだと思うので、統合報告の考え方自体は良いと思っています。
統合報告については、IIRCがフレームワークを出していますが、どのようにご覧になっていますか。
実はあまりよく思っていません(笑)。企業の個性をつかむためにレポートを読み始めたのに、それを枠にはめようとしたら有価証券報告書と変わらなくなってしまいます。本当は枠組みに頼らず、自社が伝えたいことを書いてくれることが一番なので、よけいなことをしないでほしいなというのが本音ですね。
今後、企業に期待することは?
一番は「個性的なレポートを作ってください」ですね。経営者が伝えたいことが直に感じるレポートが増えてほしいと切に願っています。
本日はありがとうございました。
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